ものの遠さを埋めようとする生の営みは、それが遠いものに導かれる歩みである限り自己矛盾を免れぬことだろう。氏の詩篇に貫いて感じられるのはそういった分裂に対する切実な反省である。だが嫌悪ではなくて、運ぶ足を踏みしめ踏みしめ、詩人は坂を登り続ける。
戦後の経済成長はいわば商人たちが小賢しさを身につけることで到達し得た高みである、と言えるかもしれない。彼らは詩人の影であるが、その彼らとともに浮沈を見て、同時代を生きた詩人の言葉が、しかし暗さに留まらないのは、なお生きる身近なひとびとへの日常的な信頼が、地に足のついたものであるからだろうと思う。(菅野 充・編集者)