「歌と彷徨」のふしぎ
中上さんの詩集はよく読んでいたのですが、電子ブックでまたちがう魅力を発見しました。詩の背後に生起する物語的時間の質が感じられて、いま目の前で私に語られているような生々しさを感じました。また音楽の選び方がよくて、中上詩の雰囲気を引き立て、すてきに立ち上がらせていますね。
彼の「エルヴィスの死んだ夜に」という詩集がありますが、ふしぎなことにエルヴィスに通じる呼吸を感じます。エルヴィスの歌声は、セクシーであるとともに、それは聞いていると、歌詞というよりも、「語り」そのもののように思われてくるのです。他の歌手とそこが違います。エルヴィス自身、言葉をとても大事にした人とか。
「歌と彷徨」の頁をめくるごとに、詩人の生きてきた背景、今もそこに揺れ続けている背景に、だんだん巻き込まれていく自分がいるようです…。