季節のエッセー『秋と詩の音』
犬飼 愛生
(京都新聞 9月26日掲載より転載)
まもなく2歳の息子が「さんぽ、いくー」とはっきりと主張してくるようになった。残暑は厳しいが、いかねばならない。子供が年まれてから、散歩はもう日課のようなものだ。
散歩は季節を否応なく体感する。もう公園にはどんぐりやまつぽっくりが落ちているし、いい色の薬っぱも落ちている。そして子どもというものはそれらをもれなく拾うのだ。お母ちゃんはちゃんとそれらを持ち帰る袋も持ってきているよ(そして遠慮なくどっしりと入れられるどんぐり…)。
自宅の庭でも私を悩ませる雑草たちはやや勢力を弱め、虫も蝉ではなく、バッタやトンボをよく見かけるようになった。夕方頃からは虫の声も。秋だなあと思う。公園で拾ったどんぐりを洗いながら、最近、詩人の坂多瑩子さんが出した電子詩集『ミルクバーバの裏庭』を思い出していた。
電子詩集とは電子書籍のひとつなのだが、インターネット上でデータを購入してiPadやパソコン本体にダウンロードして楽しむものだ。しかし、「読む」と断定はできない。なんせ、今回の彼女の電子詩集は声も音楽も映像も入っていたのだから、「聞く」とも「見る」とも言いかえることができる。電子書籍を利用するのは初めてだったが、これはすごいものができたなあと驚いた。
詩集というと、白い紙の上に理路整然と文字が並んでいるイメージで、それだけでもう読む気がなくなる、難しそう、という方も多いだろう。それが、電子書籍になるとすごくとっつきやすくなった気がする。この電子詩集でも彼女の詩が持つユニークでちょっと不思議な世界観がよりうまく表現されていた。
文字が回ったり、落ちたり、紙媒体では絶対に表現できなかった方法で、文字そのものを楽しむこともできた。電子書籍を作るとき、たとえばここで秋っぽい音を入れたいと要望すれば反映できる。詩は文字の位置ひとつ、行間一行のあけ方がすごく重要になってくる。ここで音を入れるというのはイメージをより強く求めるとき、すごく良い表現手段だ。私もちよっと挑戦してみたくなった。
私は時々自分の作品に京ことばを入れるのだが、これを電子詩集で発表したらおもしろいかもしれない。「○○しはる」という京ことばの独特の言い回しも、ちゃんと表現できる。でも誰が朗読してくれるのかな。私は朗読が赤面するほど下手なんですが…。あ、でも顔出ししないなら、ま、いっか。(詩人)
(このレビューは、投稿者が京都新聞に書かれたものですが、ご本人の承諾を得て管理者が転載させていただきました。)