静物
誰れも私の胸のふかさをはかつたものはない
自然と人間の暗黒の距離
眼をつぶると
ぐつと海が近づいてきた。
敗戦直後の第二回H氏賞詩集『黒い果実』などで広く知られる詩人長島三芳が満九十三歳で他界したのは二〇一一年九月のことだが、死の直前まで詩を書きつづけた生命力には誰しも感嘆するほかない。長島の詩歴はほぼ八十年にわたり、生前に出版された詩集九冊、選詩集一冊、さらに少なからぬ未完詩篇があって、本書は彼の全詩選集になるが、その生涯を辿ることで、埋もれがちな日本の現代詩界の一側面を明かすことができるだろう。
(平林敏彦・解説より)
かつて一兵士として戦場を知っている長島氏は、集団の中の個の存在や、そこでの詩人の感性との軋轢に悩んだことだろう。従ってアメリカの空母や原子力潜水艦などの乗組員たちを見る目は温かく、その人たちの胸の底にある人間的な熱い思いや、人間性を破壊されつつある兵士の、心の回復を求める姿などを鋭く抉り出し、戦争の持つ残酷さの一面を浮き彫りにしている。
(禿 慶子・解説より)
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