この荒廃に杭を打て
もうどんな拝火教徒も平和も
この門に入れるな
ぼくは日付のない年代記 きみは
かつて丘陵をめぐる風紋だった女から
ここまでやってきた
ぼくたちのカナンまで
「カナンまで」より
郷原宏は、ことばが思考そのものとなるような書き方をした。ひびかせた。それは作者がすぐれた批評家であるためばかりとは思えない。一編の詩が、考えながら運ばれ、次のことばに引き継がれる経過を、詩のなかで示したことになる。人も物もすべては、詩のなかで、詩のことばのなかで示されるとこのようなものになることを表わした。詩ということばの空気に、すなおにつなぎながら、ことばの不変の光景を強く、影のようににじませた人なのだと思う。
(荒川洋治・解説より)
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