また秋が回ってきたけど
あなたの秋はどんなふりしてやってきました?
澄みきったコバルト・ブルーの風に乗ってですか
臙脂いろした悔恨のマントを纏ってですか
それとも
ちらっと横眼で見やったら
百年も前からここにいたじゃないかといわぬばかりに
ふくれっ面でもしていましたか
(「あなたへの恥しい挨拶―秋の歌」より)
竹川弘太郎の第二詩集『毛』の発行は、第一詩集と同じく金子光晴の「跋」をもらっていながら、光晴の死に数か月遅れた。
その「跋」で、「竹川君はふしぎな人物だ」「千言を費やすよりも、まずこのふしぎな詩をよんでみることだ」と金子は言う。この「ふしぎ」とは、反骨流亡の生涯を貫いた実存抵抗の稀代の詩人金子光晴が、『毛』を読み、詩人としての竹川弘太郎とその詩を、実感的に認めたことを意味する。「詩の美学からしても、これは、完成に近い出来栄の作品であるとおもう。この人が志向するなにものかをつかんだことは、もはや、争えない事だ」とまで金子は言っている。わたしもその側にいたうちの一人であるが、金子光晴がこれほどまでに書いた跋文を他には知らない。
遠い過去と現在、影と光、夢幻と現実、生と死などと連ねると、嘲い返されてしまうような妖しい詩の世界が、この詩集には密かに息づいている。
(暮尾淳・解説より)
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