私は海から生まれた不出来な作品
波打ち際で砂にまみれ 波に打たれていた
こころやさしい一族に拾われ
船に揺すられながら大事に育てられた
潮騒の中から聞こえくる
ひと夜で思いを遂げたなら
貫きなさい 生きなさい ざざくりでありなさい
(「ざざくり」より)
桜井さざえが生木を剥ぐように、開扉する詩世界の現実体は、ヘミングウェイのそれのように、即物的だ。それ故にドライに描かれる事物の相貌は鋭角的な影を抱える。桜井さざえのリアリズムが悲劇的なトーンを響かせるのはそのためだろう。
(石原武・解説より)
これは単なる秘境案内ではない。単なるフォークロアではない。詩「帰鳥鼻」に見られるように、詩人はいわば生者と死者を代表して自分たちの郷土を歌い上げているのである。桜井さざえがあってこそ、倉橋島があるのであって、その逆ではないのだ。
(神品芳夫・解説)
花をモチーフにした詩を一冊にまとめて出版したい。と聞かされた時、私は一種の戸惑いと危惧を感じた。(中略)しかし、送られてきた校正刷りを読み進むうちに、それは、このひとの詩業を大切に思うあまりの、私の杞憂であることがわかった。題材こそ違え、倉橋島の桜井さざえは、紛れもなくここにもいた。いてくれた。
(新川和江・解説より)
この詩集の貴重な証言は、人に故郷という願望がある限り、今後も普遍的な意味を持ち続けていくであろう。おそらく、私たちが最後に帰っていく場所は、人と人が血肉を越え繋がり合っていくという、ここに桜井が現出した世界以外にはない。
(中村不二夫・解説より)
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