落ちる物は
無意識のうちに落ちて
ぼくの皮膚は少しも傷付かなかった
落とせといわれた物は
ぼくの内臓がちぎれるようで
しっかりと胸に抱いた
(「落とす物は」より)
夏こそが詩人山下の生の季節なのだ。夏は岡山市の空襲であり、学徒動員であり、学徒兵の訓練であり、血縁の召集と戦死の季節であり、日本の季節なのだ。山下は被害者としての少年であり、良心とも言える妻の責めであり、愛であり、彼女の急逝であり、世界の海を救いもなく浮遊するクジラでもあるのだ。遍路の終着点は夏なのだ。
(井奥行彦・解説より)
山下静男さんの詩は、静かな内省の詩だ。他者の言葉や世界の在り様に耳を傾けて、その意味を確かめて、いま自分の置かれている情況の中で、他者との関係を考えている。人を驚かしたり知識を散りばめたりする手法ではないが、その問いかけの仕方は、いつも自己の内部に向けて切実な試みである。
(鈴木比佐雄・解説より)
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