堕ちる
夢の中で堕ちると
固い地面が受け止めてくれる
目を覚ましていて堕ちると
無限に堕ちつづける
山本美代子は車を運転するが、エレベーターを怖がる。車もエレベーターもどちらも箱だと思うのだが、それが同じ箱ではないらしいのだ。たしかに、山本美代子の書く詩は疾走する箱のおもむきを持たない。閉ざされた動かぬ箱のおもむきを持つ。ところがこの箱、乗ったとたんに動きだすのだ。みずからの詩の怖さを熟知している詩人が閉ざされた箱=エレベーターを怖がるのは、当然のことかもしれない。
(安水稔和・解説より)
山本の散文詩は形而上詩と言えるのではないか、と思ったり、初期の作品から『夜神楽』まで通読すると、真摯に生きた賢明な一人の女性の生涯が、その繊細の精神の推移とともに惻惻と伝わってきて愛しくなってきたりする。『フーガ』だけでなく、彼女の初期の行分け詩も機智に富んでいて楽しい。“わたしの中に佇んでいる”「白い馬」を行分け詩の広大な草原にも一度放す試みも面白いのではないか、と考えたりしたことだった。
(伊勢田史郎・解説より)
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